「ゴッホの並木道の舞台」アルルのアリスカン

この記事では、南仏アルルにあるローマ時代の墓地であるアリスカンについて紹介します。ゴッホとゴーギャンがこの地の並木道を題材として作品を描いたことでも有名です。

アリスカン

アリスカンの観光には大人1人5ユーロかかります。アリスカンへはアルル観光パスを使っても見学できます。

アリスカン(Alyscamps)は南フランスのアルルにあるローマ時代の墓地で、アルルの中心部からは少し外れたところに位置しています。これは、ローマ都市では伝統的に市内での埋葬が禁止されており、都市のすぐ外側の道路沿いに墓や霊廟が並ぶのが一般的だったためです。

アリスカンの特徴として、多くの石棺(サルコファガス)が並んでいる並木道があります。墓石や彫刻も多く残っており、古代ローマと中世の墓地文化を感じることができます。当時は彫刻等が施された豪華な棺があったとされていますが、それらは盗まれ、現在はシンプルな棺だけが残されています。

石棺が並んでいるアリスカンの並木道

アリスカンは1981年に世界遺産「アルルのローマ遺跡とロマネスク様式建造物群(Arles, Roman and Romanesque Monuments)」の一部として登録されました。

アリスカンはローマ時代からから中世にかけて使用され、中世には重要な巡礼地でした。周囲には多くの教会が建ち並び、三世紀に亡くなったとされるアルル初代司教の聖トロフィムスの遺体も安置されていました。

しかし、1152年に聖トロフィムスの遺体がアルル中心部のサン=テチエンヌ大聖堂に移されると、墓地の周りにあった教会も無くなっていきました。

現在、墓地の周りにあった多くの教会はなくなっていますが、アリスカンの一番奥にはロマネスク様式のサン=トノラ教会(Eglise Saint-Honorat)が残っています。

現在この教会は廃墟となっていますが、サン=トノラ教会跡は世界遺産「フランスのサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路(Routes of Santiago de Compostela in France)」の一部として前述の世界遺産と重複して登録されています。

ちなみに聖トロフィムスの遺体が移されると、大聖堂は彼の名前にちなんで「サン=トロフィーム教会」と改称されました。サン=トロフィーム教会はアルル中心部リパブリック広場にあり、こちらも「アルルのローマ遺跡とロマネスク様式建造物群」に登録されています。

ゴッホの並木道

ポプラの木が続く長い並木道はローマ時代から中世にかけての墓に囲まれており、ヴァン・ゴッホの時代にはすでに有名な観光名所でした。

1888年にゴッホはこの並木道をモデルに「アリスカンの並木道(“Les Alyscamps”)」というタイトルの2作品および「落ち葉(“Falling Autumn Leaves”)」というタイトルの2作品という計4作品を描きました。

「アリスカンの並木道」は並木道と墓地を描いたもので、同じ題名の二つの作品はそれぞれ異なるアングルからの視点となっています。

アリスカンには「落ち葉」の複製パネルが置かれていました。この作品では秋の落ち葉とポプラの並木道が描かれています。絵画はオランダのKröller-Müller Museumに所蔵されています。

アリスカンに置かれていた”Falling Leaves”の複製パネル

「落ち葉」では視点が高い位置に置かれ、並木道を見下ろすように描かれています。水平線が見えず、中央の3本の木が直接手前にある遠近法の省略された視点となっています。この遠近感を抑えた平面的な表現は日本の浮世絵版画を連想させます。

ゴッホは浮世絵の鮮やかな色使いにも影響を受けています。作品中の木々は元々紫色でしたが、絵の中の赤い顔料の変色によって青くなったそうです。

アリスカンは中心部にある他の遺跡群からは少し離れていることもあり、観光客は比較的少なかったです。私が訪れたのは2024年の4月であり、ゴッホが作品を描いた秋の並木道とは風景は違いましたが、穏やかな雰囲気は当時から変わっていないのかな〜と感じました。

また、ゴーギャンも同時期にアリスカンを画題に2作品を描いています。そのうちのひとつ”Allée des Alyscamps”は東京のSOMPO美術館に所蔵されています。もうひとつの”Les Alyscamps”はパリのオルセー美術館に所蔵されています。

アルルへ観光に行った際の様子をYoutubeにアップしていますので、興味があればご覧ください。

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