留学先の研究室について確認すべき3つの点

この記事では、博士課程留学先の研究室を選ぶ時に私が確認していたポイントを3つ紹介します。

以前の記事ではヨーロッパ博士課程の公募を探す方法を紹介しました。興味のある公募を見つけたら、募集している研究室や指導教員について情報収集することになります。その際に私が確認していた点を以下にご紹介します。

研究室のホームページ

研究分野

ラボの研究分野が自身の興味や専門分野に合致していることが大切です。その上で応募を考えているプロジェクトの研究室内での位置づけを確認しました。

研究室が長期間取り組んでいるテーマであれば、多くのデータやノウハウが蓄積されており、それらを活用することで比較的スムーズに研究を始められます。また、似ているテーマのPhD生やポスドクと協力して研究を進め、大きなプロジェクトに関われる可能性もあります。

一方で比較的新しいテーマの場合、研究室内のリソースは少ないかもしれませんが、自分のもたらす新たなアイデアやアプローチでうまくいけば大きなインパクトを持つような研究に取り組むことができます。

ただし、ホームページに掲載されている情報は限られているため研究内容に関する詳細は後ほど紹介する投稿論文から調べました。

業績・論文リスト

年間の投稿論文数をチェックしました。論文の数や投稿頻度は博士在籍中に自身がいくつの論文を出せそうかの指標になります。

指導教員

経歴

特にPhDやポスドクをしていた国・大学に注目しました。

仮に指導教員に日本での研究経験がある場合、日本に好印象を持っていたり、日本人の一般的な特徴を把握していたりすると予想されます。

私の場合、学部時代の交換留学先と現在の指導教員のポスドク先がアメリカの同じ大学であり、面接の時にはその話で軽く盛り上がりました。自分との共通点を少しでも探すことが大切です。

受賞歴

受賞歴は研究室の持っている研究費の指標になります。研究室選びにおいてラボの研究費が潤沢にあるかは重要な要素です。

一方で受賞歴が豊富な教授は学会や学術雑誌の仕事を多く持っていることがあります。この場合、学生の面倒を見る時間が少なく十分な指導を受けられない可能性があるため注意が必要です。

論文の被引用数

Google Scholarで指導教員の論文被引用数の推移をチェックしました。被引用数が複数年にわたって安定して増加している場合、研究成果が持続的な影響を持っており、他の研究者がその成果をもとに応用研究を行っていると推測されます。

被引用数だけで評価をすることには注意が必要です。分野によっては被引用数が少なくても影響力のある研究が存在しますし、被引用数が増えるまでには時間がかかることもあります。h指数(h-index)などを含めて各指標の特徴を知っておくことが大切です。

メンバー

メンバーは研究室のホームページで一番重視していた点です。

人数・規模

小さなラボでは一般的に指導教官との距離が近く個別の指導が受けやすいです。自身の貢献がプロジェクト全体に影響を与えることが多いことも特徴です。

大きなラボでは先輩が多く情報も集まりやすく活気があります。大規模な研究プロジェクトを行うことができるため、複雑な実験やデータ解析などを行う際に効果的です。また、研究の補助員や技術者などのサポートスタッフが存在し、実験や研究活動を効率的にサポートしてくれることがあります。

PhD生とポスドクの割合

博士学生ばかり、あるいはポスドクばかりでは無く、博士学生とポスドクがバランスよく在籍しているかを確認しました。

出身大学・大学院

ホームページにメンバーの国籍が明記されていいることは稀ですが、出身大学が記載されていることは多いです。出身大学を参考に世界中から人が集まっているのかを確認していました。

国際的な環境も大切ですが、せっかくならその国の人(ベルギーの大学ならベルギー人)が一定の割合で在籍しているラボが良かったため、自国の人の割合もチェックしていました。

研究設備

実験装置やソフトウェアなどの研究設備が充実しているかも大切です。

研究室の場所

研究室の場所は重要です。というのも博士留学では研究室周辺が生活圏になるためです。

海外大学に限った話ではありませんが、研究室がメインのキャンパスと離れて位置しているケースは多いです。そのため、大学名で場所を判断するのではなく研究室の場所をきちんと調べておく必要があります。

研究室が都市部にあるのか、郊外に位置しているのか、郊外なら近くの都市へアクセスしやすいのかを見ておくと良いです。

更新頻度

ホームページがこまめに更新されている場合、情報の信憑性が高く情報発信に力を入れているといえます。

一方で論文リストや所属メンバーが数年前から更新されていない場合、ホームページ全体の情報の信憑性が下がってしまい注意が必要です。

イベント

定期的にイベントが開催されている研究室に所属したかったため、チームビルディングのような研究室内イベントの有無をチェックしました。

ホームページ以外にTwitter(現X)も確認しました。研究室のTwitterに「週末に研究室でハイキングに行きました」「BBQをしました」「スポーツ大会に参加しました」といった情報がポストされることがあります。その時にアップされている写真から研究室の雰囲気を多少知ることができます。

研究室の投稿論文

研究テーマ

公募に関連のある論文

まずは募集ポジションのテーマに近い内容の論文を読みました。

大切にしていたのが論文を読んでいてワクワクするかどうかです。博士課程は3-4年あるため、仮に注目度の高い分野であっても自身が面白いと思えるテーマでないといけません。

また当然のことながら、全く同じテーマで新しい論文は書けません。既に世に出ている論文の応用方法、課題や改善点は見逃せないポイントです。その分野や技術の現状・課題・将来性を知ることは応募書類作成および面接の対策にもなります。

面白さや将来性の他には、自分のこれまでの経験との関連性も考えました。修士の研究内容を踏まえた時にPhDポジションへの応募が現実的な選択肢かどうか、選考時のアピールポイントは何になるのかを考える材料になります。

代表論文と最新の論文

探すときにはGoogle Scholarの指導教員のプロフィールページを使いました。代表論文であれば被引用数順に、最新の論文であれば投稿順に論文リストを表示して上から順に10報くらい読みました。

ラボの研究分野を把握するのみでなく、実験装置や測定装置などの利用可能な設備を知ることができます。

注意点として被引用数が多い論文が指導教員のポスドク時代の論文やレビュー論文であるケースが多いです。それらの論文を避けて現在の研究室における論文を読むようにしていました。

ジャーナル

インパクトファクター(IF)の高い有名な雑誌のみに投稿しているかどうかをチェックしました。

高IFのジャーナルばかりに投稿している場合は、有名ジャーナルにしか投稿してはいけないという一流誌縛りがあるかもしれません。有名ジャーナルに載るような研究成果には研究者の努力に加えて時間や運が必要です。

博士号取得には投稿論文が必要とされるケースがほとんどです。3-4年で一流雑誌に論文を出すのはかなり難しいです。私はジャーナルのIFではなく論文の投稿数を重視していました。

著者

共著者の数

チームあるいは個人で研究を進めるのかという研究スタイルの参考にしました。

チームワークを大切にするラボでは、多くの研究者との連携を得て自分一人ではできないことも可能となります。同時に自身の貢献によって共著論文を増やす機会は多くなると思われます。

共著者の名前が少ない場合は、基本的には各自が独立したテーマを持ち、主体的に研究を進めるスタイルと考えられます。多くの様々な実験を一人でこなすのは大変ですが、自分のアイデアや興味に基づいて研究を進めることができ、幅広いスキルを身につけることができると予想されます。

共著者の所属

学内外との共同研究についてどの教授・大学との交流があるのかが分かります。また、ネットワーキングは留学で得られる大きな経験の一つです。

筆頭著者(first author)

同じ人ばかりが業績をあげているかどうかも見逃せないポイントです。

特定の人だけが業績をあげている一方で、アウトプットがない人が少なからず見られる場合は、指導教員よりも個々の能力に依存しているラボの可能性があるため注意が必要です。

研究費

論文のAcknowledgesを見て研究費が潤沢にありそうかを確認しました。

参考にした書籍・ウェブサイト

論文からの情報収集については下記の書籍を参考にしました。

研究留学のすゝめ!〜渡航前の準備から留学後のキャリアまで
留学にはギモンがいっぱい!留学先選び,グラント獲得,留学後の進路…これらを乗り越えた経験者がノウハウを伝授し,ベストな留学へと導きます.本書を持って世界に飛び立ち,研究者として大きく羽ばたこう!

書籍の一部は下記のリンクから読むことができます。

留学のすゝめ|実験医学online:羊土社 - 羊土社
自分と向き合い,留学先を選ぶ|留学のすゝめ|実験医学online:羊土社 - 羊土社

指導教員

博士課程留学の最大のリスクは研究室見学ができないことだと思っています。

日本の研究室配属では学部3年時にいろいろな研究室を見学し、研究テーマや設備、指導教官、学生の雰囲気などを直接見て研究室を決めることができました。しかし博士留学で研究室を実際に見学することは現実的に難しいです。

研究室のホームページや投稿論文から研究内容や設備についてはある程度調べることができますが、研究室の雰囲気を知ることは難しいです。ただ、研究室のメンバーは毎年変わりますが指導教員は変わりません。そして指導教員の元にはその教員の方針に共感する人が自然と集まるため、指導教員について知っておくことが重要です。

博士論文のテーマがノーベル物理学賞の受賞対象となったDider Queloz博士でさえこちらの動画(21:15あたり)にて「博士課程の研究テーマよりも誰の元で研究するのかの方が大切」と語っており、指導教員の指導方法や自身との相性が非常に重要と言えます。

それでは実際に何を探すかというと、それは指導教員のインタビュー記事やインタビュー動画です。

インタビュー記事のみでその研究者の人柄を知ることは難しいですが、研究に対する考えや学生の指導方針を語っていることが多いです。

また、インタビュー動画では声や話し方が分かります。指導教員の英語の発音や話し方を知っておくことで選考時の面接対策にもなります。

私の場合、現在の指導教官がオンライン学会で司会をしている動画とYouTubeで研究紹介をしている動画を見つけました。これらの動画を視聴したことで落ち着いて面接に臨むことができました。

まとめ

今回は、博士留学の研究室の探し方について紹介しました。私は研究室ホームページ、投稿論文、指導教員という3つの方法で探しました。

上記全てを満たす研究室を探すのは難しいです。正直なところ、私自身はどこでもいいからオファーをいただきたいという思いで研究室を選んでいる余裕などはありませんでした。

自分の中で優先順位やどうしても譲れない点を決めて探すと良いと思います。その時に今回紹介した内容が少しでも役に立てば嬉しいです。